Web上に新しい潮流が起こりつつある現在、「クリエイターエコノミー」が注目されています。
しかし日本ではまだ本格的な動きが見えにくい状態で、具体的にどのようなものがクリエイターエコノミーにあたるのかピンと来ていない人も多いのではないでしょうか。
今回はそんな「クリエイターエコノミー」と呼ばれるものの概要や、その市場規模、クリエイターの収入となるプラットフォームについてご紹介していきます。
個人向けのWebサービス提供事業やグッズ製作、IPビジネスに携わる方方々にとっても今後、この潮流を活かしてどのようにビジネスにつなげられるか考えるヒントになれば幸いです。
目次
クリエイターエコノミーとは|クリエイター主導の経済圏
「クリエイターエコノミー」とは、ジャンルを問わず個人のクリエイターが自らの表現で収入を得ることにより形成された経済圏のことを指します。
YouTuber・ゲーム配信者・SNSインフルエンサー・アーティスト・ジャーナリストなど、さまざまな人々が収入を得られるようになってきています。
従来は収入を得る場を提供するプラットフォームやサービスの力が強く、クリエイターの立場は弱いものでした。それに対して今、形成されつつあるクリエイターエコノミーは、立場の強いプラットフォームを介することのないマネタイズの選択肢が増えたことにより生まれました。最近では、クリエイター個人に寄り添い、顧客から直接収入を得ることができるプラットフォームが発達してきています。そういったプラットフォームの存在が、クリエイターエコノミーの活発化を後押ししていると言えるでしょう。
クリエイターとは
「クリエイターエコノミー」の「クリエイター」とは、あらゆるレベル・あらゆるジャンルの創作活動を行っている人や創作の技術を持つ人を指します。一般的な「クリエイター」というと、デザイナーやイラストレーター・カメラマンなどがアーティスト的な人々をイメージされるのではないでしょうか。そういったイメージ通りのクリエイターはもちろん、YouTuber・ブロガー・インスタグラマー・インフルエンサー・ライバー(ネットでライブ配信を行う人)など何かしらの情報やコンテンツを発信する人も含まれます。
上記に挙げた例からもわかるように、近年は特にWeb上で活動しているクリエイターがSNSなどを利用して収入を得ている例が多数あります。Webサービスの発達とクリエイターエコノミーの活発化は切っても切れない関係にあります。
クリエイターエコノミーの歴史
クリエイターエコノミーは、1999年のBlogger・2005年のYouTube・2010年のInstagramの3つの登場を大きな契機として発達してきました。
Bloggerは無料のブログサービスの先駆けで、Bloggerの出現によって専門的な知識がなくても文章や写真をWeb上に投稿・発表できるようになりました。
その後2000年代半ばに広がった「Web2.0」により、SNSを通じて誰もが簡単にコンテンツの発信・情報交換ができるようになりました。
これにより、クリエイターは、より手軽に発表の場を得ることができるようになります。とはいえ当初からいきなり誰もがコンテンツの収益化をしていくことは難しいものでした。そんな中で、2007年にYouTube広告の仕組みが誕生し、広告収入を得ることが可能になります。
2010年以降は、さらにInstagramの登場と利用者の増加により、影響力の強いユーザー「インスタグラマー」が生まれます。そしてインスタグラマーの中から、投稿で商品を紹介して企業から報酬を得る人が現れました。影響力あるユーザーに商品を宣伝してもらうこの販促手法を「インフルエンサー・マーケティング」と呼びます。
その後2015年ごろからは、YouTubeやニコニコ動画を始め、それまでマニア向けのものだったデジタルメディアが成長していきます。
YouTube、Instagram、Twitch、TikTokをはじめ、Twitterも収益化システムを実装し、ライブ配信アプリも乱立していくようになります。
テレビ・雑誌などいわゆる「4マス」の広告収入が横ばい・減少傾向にある中、上記のようなプラットフォームを中心に、今もインターネットの広告費は上昇し続けています。
クリエイターのマネタイズの方法としては、広告費を得る方法がまず発展し、次に企業がインフルエンサーを商品広告に活用するインフルエンサー・マーケティングが生まれました。
そして現在、SNSからD2Cサイトを連携した直接の商品・作品販売、投げ銭システム、海外では盛んなアーティスト支援サイトpatreonの登場など、クリエイターが顧客からダイレクトに収入を得る新しい方法が次々と生まれつつあります。
クリエイターエコノミーの市場規模
クリエイターエコノミーの総市場規模は、
2021年5月の時点で1042億ドル(この時のレートで11兆円以上)と推定されています。
(NeoReach Social Intelligence APIとInfluencer Marketing Hubの共同調査による)
テレビやニュースにも取り上げられるような日本や海外の人気YoutuberやTikTokerなどが巨額の収益を挙げていることはすでに知られていますが、ミニマムでも収益を挙げているクリエイターを合わせれば、世界では巨大な市場規模になっていることがわかります。
しかし、日本のクリエイターエコノミーは「輸入直後」のような状態で、まだ市民権を得ていないのが実状です。
もちろんWeb上で自分の表現によって収益を得ているクリエイターは多数いますが、クリエイターの活動をバックアップし活発化させるサービスが充実しているとは言えません。(前例主義の強い日本にはもともと、何かしらの賞などを得る前の無名のクリエイターやクリエイターの卵にパトロンとして金銭のサポートをする文化土壌があまりない、という側面もやや影響しているかもしれません。)
しかし、昨今はYouTuberやブロガー、インフルエンサーが日本の市場でも影響力を持つようになったことで、クリエイターの収益活動を活性化させようとする動きも出てきており、これから発展していくと予想されます。
クリエイターエコノミーが注目される理由
近年クリエイターエコノミーが注目されているのは、日本でも様々なジャンルでクリエイターの活動が活発になっているからです。
クリエイターが活発化している理由は多岐にわたりますが、大きく分けると、プラットフォームやサービスなどWeb環境面の進化と、社会情勢の大きな変化に理由があります。
Web環境面の進化とは、YouTubeの隆盛・SNSの発達・D2Cサイトの発達・クリエイター向けのプラットフォームの進化などが挙げられます。いずれもクリエイターが収入を得やすくなる環境が整備されつつあるという例です。
社会情勢の変化とは、新型コロナの影響です。
コロナ禍により外出の機会が減り、自宅で過ごす時間が増えたことも大きな要因となりました。発信者も閲覧者も、家にいる時間が長くなるのに伴い、インターネットの接続時間も長くなり、オンラインゲームなどへの課金額、YouTubeなどへの動画投稿、配信時間、動画の閲覧時間も世界的に増加しました。
動画、写真、イラスト、料理、旅行ログ、ライフログ…
クリエイターが増えれば、良質なコンテンツの割合も増え、コンテンツが面白ければ閲覧者も増えます。
良質なコンテンツであれば、閲覧者は視聴し、そのクリエイターを応援するために課金するケースも増えていきます。
(VtuberやYouTuberにも、アーティストと同じようにファンが付き、今流行の推し活の対象にもなっています)
このように、急増したクリエイターたちは発達したプラットフォーム・サービスを利用した収益化を行うようになりました。
コロナ禍に本格的にクリエイター活動を始めた人は非常に多く、そうしたクリエイターが増えるのに従ってクリエイター向けのサービスもさらに発展するという流れができたのです。
このように、あらゆる点でお互いを高め合うようにスパイラルでクリエイターエコノミーの発展が進行している状況です。
クリエイターが収入を得る方法とプラットフォーム
近年、クリエイターが急増したことで、さまざまな新しいプラットフォームやサービスが、クリエイターエコノミーを活発化させています。
企業からの広告収入やインフルエンサーマーケティングに依存しない、つまり企業に依存せず、顧客から直接収入が得られるようなプラットフォームが生まれてきている状況です。
そういったプラットフォームやサービスで収入を得る方法には、具体的には次のような手段があります。
- ファン・オーディエンスからのギフティングによる収入
- クラウドファインディングによる収入
- 月額課金による収入
- eコマースによる収入
それぞれの方法とその受け皿となっている代表的なプラットフォーム・サービスを合わせて解説していきます。
ファン・オーディエンスからのギフティングによる収入
動画の配信・ライブストリーミングサービス(リアルタイムでの映像配信・生中継)などの介した、ファン・オーディエンスからのギフティング(投げ銭)によって収入を得る方法です。Youtuberをはじめとするアーティストや芸能人、インフルエンサーなど、一定数以上のファンを持つクリエイターはこの方法での収入が見込めるようです。
クリエイターの収入において動画投稿による広告収入の次に多くの人がイメージする収入を得る方法ではないでしょうか。
YouTube
言わずと知れた動画投稿サイト。収益化の方法としては投稿した動画中に表示される広告収入が大半ですが、チャンネルへの課金やライブ配信中に行える投げ銭システムのような「Super Chat(スーパーチャット)」なども実装されるようになりました。
SHOWROOM(ショールーム)
ライブストリーミングサービスの1つで、アイドル、モデル、コスプレイヤーなどが多く利用しています。視聴者からのギフト(投げ銭のようなもの)で収入を得ることが可能です。
Pococha(ポコチャ)
ライブストリーミングサービスですが、投げ銭のほか配信の時間の長さなどに応じても収入が得られます。ファンが少ない・投げ銭がない状態でも少しずつ収入が得られるのが特徴です。
Tik Tok(ティックトック)
中国の動画配信サービスです。投稿できる動画が15秒~1分程度と短いのが特徴です。広告収入のほか、ライブ配信での投げ銭で収入が得られます(ライブ配信は条件あり)。
このほか映像では「17LIVE」、映像以外のメディア的なプラットフォームでは文章などに課金できる「note」といったサービスもあります。またアメリカで広まっているニュースレター(メールによる月額課金のテキストコンテンツ)の日本版プラットフォームも登場しています。
クラウドファインディングによる収入
日本でも浸透してきた「クラファン」。プロジェクト単位で資金援助を募ることができるクラウドファインディングは、個人のクリエイターのほか、団体やプロジェクトチーム単位での支援募集が多く見られます。
商品開発・販売資金、農家による青果の受注販売、店舗やスタジオのオープン資金、アーティストやデザイナーによる自身のオリジナルグッズ製作販売、舞台パフォーマンスの活動費、などそのジャンルは多岐に渡ります。
CAMPFIRE
国内最大のクラウドファインディングプラットフォーム。テクノロジーやガジェット、サービス開発のプロジェクトに強い傾向がありますが、クリエイターの多いアートや舞台のプロジェクトもあり、取り扱うジャンルが幅広いのが特徴です。
Makuake
ファッション、フード、飲食店に強いクラファンプラットフォームです。また、プロジェクト支援の最低募集金額が500円という低価格から設定できるのが特徴です。(CAMPFIREは最低1万円からの設定)
FiNANCiE(フィナンシェ)
ブロックチェーンを活用した、トークン発行型クラウドファインディング。Jリーグ「湘南ベルマーレ」やBリーグ「仙台89ERS」などのスポーツチームのファントークンも発行。アイドル、起業家、クリエイターなどの応援プロジェクトとして急成長しています。
このほかにもクラウドファインディングは数多く存在しますが、融資型・株式投資型のものが多く、上記のCAMPFIREやMakuakeは購入型・寄付型なので専門知識がなくてもわかりやすく支援ができるのが特徴です。加えて、一般的な知名度も高いプラットフォームであることから、クリエイターもそのファンも参加しやすいようです。
月額課金による収入
月額課金、つまりサブスクによる収入。
YouTubeやnoteなど既存の投稿・配信プラットフォームでの定期購読やメンバーシップ課金があります。
最近では、クリエイターのコンテンツに月額課金をして視聴する前提のプラットフォームも登場しています。
YouTube(メンバーシップ)
Youtubeには投げ銭システム「Super Chat」とは別に、メンバーシップというシステムがあります。月額料金を支払った視聴者はメンバーとなり、クリエイターはメンバーシップ限定で視聴できる動画や配信を公開するなどの特典を提供します。
mediable
動画や投稿を、定額制サービスとして有料配信できるサブスク動画プラットフォーム。お笑い芸人なども配信を行っています。ファンに対してサブスク課金クーポンを発行したクリエイターに対してプラットフォーム側が応援金をプレゼントするキャンペーンも行っており、サブスクで収入を得たいクリエイターの活動支援に力を入れていることが分かります。
Voicy
音声コンテンツ配信プラットフォーム。クリエイターは応募した上で審査を通ればパーソナリティとして音声配信が可能。その審査はかなり厳しいそうですが、発信できるコンテンツ力次第では無名でも配信できる可能性があります。現在配信しているのは著名人や文化人、アーティストのほか、さまざまな専門家などが見られます。注目の音声コンテンツ配信ということもあり、視聴者数は伸びつつあり、今後Voicy上での配信で収益を挙げることができるクリエイターが増えるかもしれません。
DMMオンラインサロン
オンラインレッスンやファンクラブが運営できる会員制コミュニティサービス。オンラインサロンのプラットフォームとしてシェアが広く、著名人や専門家本人を交えたファンの交流や、アーティストやクリエイターの本人参加ファンクラブとしても利用されています。ヘアスタイルや着付け、ファッションアドバイスなどのオンラインレッスンも多く、自身のスキルや知識を活かして教室を開きたいクリエイターの受け皿にもなっています。
他の方法に比べて知名度やファン数、スキルや知識を必要とするのが課金制のプラットフォームでの収益化です。しかし、質の高いコンテンツを発信できるクリエイターにとっては、ギフティングやクラウドファインディングよりも定期的な収入を得ることができる可能性が高い方法です。
eコマースによる収入
ハンドクラフト(手芸)やアナログのアート作品、オリジナルブランドなどを作って売ることで収入を得たいクリエイターにとってはeコマースは不可欠です。近年、グッズからデジタルデータまで、クリエイターが自分の商品・作品を消費者にダイレクトに販売する「D2C」が可能なプラットフォームが急増。サービス利用料や手数料がかかるのは既存のECモールなどへの出店と変わりませんが、手軽に自身のECサイトを構築でき、決済システムの導入なども比較的簡単になりました。
BASE(ベイス)
ネットショップを作ってグッズ・デジタルデータの販売ができるサービスです。ショップサイトのデザインテンプレートが豊富で、開設に費用がかからないことから初心者でもECショップを始めやすいのが特徴です。(販売取引が成立すると決済手数料やサービス利用料が必要になります。)
Shopify(ショッピファイ)
アパレルからスイーツまで、大手企業も利用するカナダのネットショップ作成サービスです。アナログの物品のほか、デジタルデータ販売にも対応しており、海外販売に強いのが特徴です。海外にファンが多いクリエイターの場合、BASEよりこちらを選ぶ理由のひとつになっているようです。
elu(エル)
イラスト・写真・音声・動画などのデジタルデータを固定価格・数量指定で販売できるサービスです。売上に応じてシステム手数料がかかりますが、音声データの販売も可能な点から声や音楽をメインに活動しているクリエイターからも注目されているようです。
このほか、イラスト・漫画作品販売では大手投稿サイト「pixiv」による「BOOTH」や、ハンドクラフト専門の通販プラットフォーム「minne」や、売買が手軽なことからメルカリでのハンドメイドグッズ販売もクリエイターに利用されています。クリエイターや小規模の個人事業主によるD2Cプラットフォームを利用した小規模eコマースはさらに増えている状況です。「ソーシャルコマース」のコラムでも解説したように、D2Cを可能にするこれらのサービスは今後さらに発展すると考えられます。
クリエイターエコノミーとNFT・メタバース・アバターの関係性と今後
クリエイターエコノミーは、近年話題となっている「NFT」「メタバース」「アバター」「Web3.0」などの新しいWebに関する概念や技術と深く結びついていくと考えられます。今挙げた例は、Webでの1対1のコミュニケーションや取引・大企業集中から個への分散など、いずれも「個人」に関わるものです。個々人のクリエイターによる経済圏であるクリエイターエコノミーの発展と同じ流れにあると言えます。
具体的には、絵や文章などデジタルコンテンツを販売するクリエイターは、NFTで権利を保護しながら作品のスムーズな販売ができるようになると期待されます。NFTは、ブロックチェーン技術を使ってそのコンテンツがコピーや不正なものではないことを証明する技術です。
そのほか、VRで使われるアバターのデザインを行うクリエイターもいます。アバターを利用するメタバースの市場にも密接に関わってくると考えられます。
企業のビジネスにもなり得るクリエイターエコノミー
企業にとっても、クリエイターエコノミーが、クリエイター向けサービスの展開などのビジネスチャンスとなる可能性があります。
今後クリエイターエコノミーをビジネスに活かしていくには、次のような方法があると考えられます。
- クリエイターのサポート・マネジメント
- プラットフォーム運営への参入
- クリエイターと連携したコンテンツや商品製作
さらに日本国内の動きとして、「クリエイターエコノミー協会」の発足が挙げられます。
2021年8月にUUUM・note・BASEを中心とした39社で設立されました。中心となったのは、いずれもYoutuberやエッセイスト・ジャーナリスト・クリエイターの作品販売ショップなどそれぞれ作品の発信場所やマネジメントを担っている企業です。
クリエイティブ活動の促進と保護に努めることを趣旨とした協会が発足したことで、クリエイターの活動が活性化するであろうと考えられます。同時に、クリエイターエコノミーを取り巻く各分野の企業の動向を見ていくことができるでしょう。
まとめ
クリエイターエコノミーは、Webの技術やプラットフォームの発展とそれに伴う潮流から生まれたものです。
ブロックチェーン技術の確立や、次世代のインターネット概念「WEB3.0」の構想に注目が集まるように、Webの世界は、今後ますます個の存在感が高まる方向に進んでいくことでしょう。
個々のクリエイターの集合による経済圏であるクリエイターエコノミーは、その潮流から生まれたもので、クリエイター発信による経済効果は今後さらに加速していくことが予想されます。
クリエイターエコノミーは、個人のクリエイターだけでなく企業のビジネスとしても可能性を秘めています。
IPビジネスを行う企業などは、今後の動きに注目した方がよいでしょう。
グッズの書き下ろしイラスト受注などで個人のクリエイターへIPビジネス企業が発注を行うケースは多く逆に、有名クリエイターとの連携やインフルエンサーの拡散力によって知名度を上げるIPコンテンツも多く見られます。
クリエイター活動・プラットフォーム知識・SNS広告を活用できるかどうかが、すでにIPコンテンツの死活問題ともなってきた昨今。
IPビジネスに関わる企業・担当者の方々は、クリエイターエコノミーと呼ばれる一大経済圏に対して、常にアンテナを向け続けていく必要がありそうです。