絵画や浮世絵などの美術や伝統文様を使ってオリジナルグッズを作りたい!
誰もが知る名画や古くからある伝統的な文様。そういった文様や作品を企画商品に使うことはできるのか?
作品を所有する団体や法人に問い合わせる方法もありますが、もう一つの方法が「パブリックドメイン」となっている作品の使用です。このパブリックドメインとなった作品の中には、商用で使用ができるものが存在します。
この記事では、伝統的な文様・古美術や絵画作品を活用して商品化するときのポイントについてまとめます。
商品化した例なども紹介しているので、グッズ企画などをご担当されている方はぜひご一読ください。
目次
名画や伝統文様をグッズ・商品に使用する方法

世界的な名画や、伝統的な文様図案。こうした作品を商品化のために使用する場合には作品の著作権を持つ所有者や団体に許諾をもらうのが一般的ですが、以下のような2つのアプローチも存在します。
- 商用利用可能なパブリックドメインの利用
- 文様や図案を所有する法人サービスの利用
商用利用可能なパブリックドメインの利用
「パブリックドメイン」とは、著作物や発明について、著作権など知的財産権が発生しておらず誰でも利用できる状態のことをいいます。著作権が発生していない理由は、主に次の2つのいずれかです。
- 作者の死後70年経過(※原則通りの場合)し、著作権が消滅している
- 作者が著作権を放棄している
中世・近世に描かれ現存している絵画の多くは主に1つめの理由でパブリックドメインとなっているものがあります。名画と呼ばれる有名な絵画でも、こうした経緯でパブリックドメイン化しているものは、商用利用することも可能です。
ただし、使用において何も制限がないわけではありません。著作権は切れていても所有権を持つ人がいる場合には、所有権を侵害してしまう可能性があります。また、著作権が消滅していて、権利所有者も不在であったとしても、著作者の没後に著作者を否定する、著作者の精神を犯すような改変、名誉を傷つける行為などは禁止されています。
中には、上記の問題はクリアしているものの、表現手法によっては剽窃(ひょうせつ)や文化盗用ではないかとネット上で議論が起きてしまい(いわゆる炎上)、販売・公開を中止するケースもたびたび発生しています。
パブリックドメイン利用のメリットは、申請や許諾などの手続きをせず、比較的手軽に利用できることです。しかし同時に、著作者や所有者等の細かなチェックが入らないことで、後々に思わぬトラブルが発生する可能性もあるのがデメリットでしょう。
パブリックドメインの商用利用時には利用規約等を必ず確認しておきましょう。
文様や図案を所有する法人サービスの利用
文様や図案を所有している法人が、商用利用できるサービスを提供している場合もあります。
そういったサービスでは伝統文様や図案などがデジタルアーカイブ化されており、文様や図案のデータを利用することが可能です。「デジタルアーカイブ」とは、公的資料や芸術作品などをデジタルデータとして記録・保存、公開して利用できるものをいいます。
こうした伝統文様のサービスは、文様の意匠を保護しながらも、商用での幅広い活用を図るプロジェクトであるケースが多く、商用利用を前提にした問い合わせには、比較的スムーズな手続きが可能と思われます。
商用利用可能なパブリックドメイン作品

では、商用利用が可能なパブリックドメインの作品にはどのようなものがあるのか、パブリックドメインの作品を利用して商品化された例としてどのようなものがあるのかをまとめます。
パブリックドメイン作品を公開している団体・サイト
作品を所蔵・公開している美術館ごとに、代表的なパブリックドメインの作品をピックアップしてご紹介します。
メトロポリタン美術館
40万点以上の作品のデータがパブリックドメインとして公開されています。歌川国芳をはじめ、歌川広重の「東海道五十三次」、葛飾北斎の「富岳三十六景」の「神奈川沖浪裏」「赤富士」、写楽など日本の浮世絵や、フェルメール・ゴッホなど西洋の巨匠の作品もあります。作品ページの「Public Domain」マークが目印です。
ニューヨーク公共図書館
75万点以上のデータが公開されています。歌川広重の「庄野 白雨」、「源氏物語絵巻」などの浮世絵、世界の古地図、古い写真、楽譜、著名人直筆の手紙などジャンルも多岐にわたります。作品の小さなサムネイル画像の一覧は圧巻。作品ページに「Free to use without restriction」とあるのがパブリックドメインの作品です。
アムステルダム美術館
70万点以上のパブリックドメインのデータが公開されています。自国オランダの画家の作品が多く、フェルメールやレンブラント、ゴッホなどの作品があります。現存するフェルメールの作品は40点にも満たないのですが、そのうち代表作「牛乳を注ぐ女」など4点も公開。作品詳細中の「Public Domain」が目印です。
ナショナルギャラリーオブアート
ナショナルギャラリーオブアートはスミソニアン博物館の1施設で、4万5千点以上のパブリックドメインのデータを公開しています。レオナルド・ダ・ヴィンチをはじめ、ゴッホやモネ・フェルメール・ゴーギャンなどの作品もあります。 パブリックドメインの作品には「PUBLIC DOMAIN」マークが付いています。
パブリックドメイン美術館
パブリックドメインとなっている美術作品を、600dpiでスキャン・公開しているウェブサイト。抽象絵画の創始者・カンディンスキーの絵画やロートレックのポスター、イギリスの詩人・デザイナーで「モダンデザインの父」と呼ばれるウィリアム・モリスの図柄などが公開されています。
パブリックドメインから商品化した事例
上記で紹介したようなパブリックドメインの作品を使った商品の例をご紹介します。
葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」を商品化した事例

引用元:フェリシモ|猫部
こちらは葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」を使用した猫のつめとぎです。
葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」は国内だけではなく、世界的にも浮世絵の代名詞的に知られている作品。名所を描いた連作の浮世絵「富嶽三十六景」の1つで、同シリーズ中の傑作であり世界的にもよく知られた彼の代表作の1つでもあります。
このつめとぎはフェリシモ「猫部」の商品であり、「神奈川沖浪裏」のパブリックドメイン作品をもとに商品化されています。
ウィリアム・モリスの「ボタニカルデザイン」を商品化した事例

引用元:フェリシモの雑貨|Kraso
ウィリアム・モリスは19世紀イギリスの詩人でありデザイナーで、生活と芸術を一致させようという「アーツ・アンド・クラフツ運動」を主導しました。彼のデザインの特徴は植物をモチーフにしている点で、「ボタニカルデザイン」とも呼ばれています。柔らかいタッチと美しくデザイン性が高いのが特徴です。このストールはパブリックドメインとなっている彼のボタニカルデザインを利用したフェリシモの商品です。
また、このパブリックドメイン事例とは別に、ウィリアム・モリスのボタニカルデザインはコットン生地「リバティプリント」の1種類としても長く愛されています。コットン生地小物のほか、手芸用コットン布地として国内の手芸店でも手に入れることができます。
「食べられる絵画」としてパブリックドメインアートを魚肉シートに印刷できるサービスの事例

引用元:味の海翁堂|食べられる絵画(パブリックドメインアート)9枚セット
次は少々変わり種、魚肉シートにパブリックドメインの作品を印刷した「食べられる絵画」の商品です。チーズ鱈などに使われているたらのすり身をのした魚肉シートに、安全な可食インクでパブリックドメインの作品をカラー印刷したものです。写真の例以外でも、パブリックドメインになっている作品なら印刷してくれるサービスです。
パブリックドメイン作品の利用において忘れてはいけないことは、誰も知的財産権を持たず、パブリックドメイン化された作品であっても
「著作者人格権」は消えないことです。
著作者人格権は「著作権」の一部で、没後に作者を否定したり、名誉を傷つけたりするような行為は認められていません。
具体的には、悪意のある改変やアダルトサイトの広告への利用などがそれに当たります。
このほかにも、「二次的著作物」「著作隣接権」などについても注意が必要です。
文様や図案を所有する法人サービス例

次に文様や図案を所有する法人サービスについて解説していきます。
多くは、伝統的な文様を保存・保護するために発足したプロジェクトですが、同時に商用利用をスムーズに行えるようにスキームを作ることで、伝統文様の幅広い展開を図っています。
西陣織の帯図案をデジタルアーカイブするプロジェクト
京都造形芸術大学の共通工房によるプロジェクトで、西陣織商の老舗「細尾」所蔵の約2万点の西陣織の帯図案をデジタルアーカイブ化する実践授業です。「MILESTONE」というプロジェクトを通じて、イタリアのブランド「FURLA」とのコラボ商品を発売した実績もあります。
伊勢模様/伊勢型紙の保護と活用
「伊勢型紙」は、三重県鈴鹿市で作られてきた着物や手ぬぐいの生地に柄を染めるときの型紙です。「型地紙」と呼ばれる台紙に、彫刻刀で文様や図柄を彫り抜いて作ります。現在は伝統的工芸品として保護され、型紙だけでなくランプなどの商品にも活用されています。
TBP(東洋美術印刷株式会社)「文様百趣」
2200点以上の伝統文様のデザイン素材を検索・ダウンロードできるサービスです。実存していた陶器や着物の素材からトレースしたデータで、デザインの背景となる意味など付帯情報も提供しています。色を変更したりパーツを取り出して利用したりといったデータの加工も可能です。
山梨デザインアーカイブ「YAMANASHI DESIGN ARCHIVE」
山梨県に伝わる文化財などのデータをデジタル化して配信する山梨県のプロジェクトです。時代や場所といった付帯的なデータも確認することができます。県内の土器や染型紙から採集した文様のほか、色のデータや造形物の3Dデータなども提供しており立体的なグッズにも活用できます。
著作権が満了・消滅した作品の商品化でも許諾は必要
よく知られた芸術作品の中には著作権が満了・消滅しているものが多数あります。しかしそういったものを利用する際も、許諾が必要となる場合があります。
たとえば、「日本最古の漫画」とも言われる「鳥獣戯画」の例があります。
鳥獣戯画の原本は京都の高山寺が所有しています。この作品は平安時代末期~鎌倉時代初期の作品とされ、当然のことながら著作権は消滅しており、パブリックドメイン化されています。しかし、高山寺が所有権を持っていますので、現在「鳥獣戯画」を利用して製作された様々なグッズは、高山寺から許諾を得た公認商品となっています。
同じく、歌舞伎をモチーフにした商品の企画や製造も管理されています。舞台美術や隈取・衣装をモチーフにしたい場合、歌舞伎に関する事業を展開してきた松竹株式会社が監修に協力しています。また定式幕柄(黒・柿色・萌黄色の帯の並び)をはじめ「歌舞伎」などの文字商標も、松竹株式会社のグループ会社である株式会社歌舞伎座が商標として取得しており、使用時には注意が必要です。
まとめ
常に人気のある伝統文様やアートを使ったグッズ製作にはいろいろな方面からのアプローチ方法があり、商品化することが可能です。
人気を博した「鳥獣戯画展」などの博物館・美術館での企画展では、ミュージアムショップのオリジナルグッズも大きな話題になりました。
名画や伝統文様とIPキャラクターがコラボした限定グッズは、話題性も高く、ファン層も幅広いことが伺えます。
パブリックドメインの作品や公開されている文様の多くは、WEB上でも閲覧できるものが多くありますので、息抜きがてらに眺めてみてはいかがでしょうか?思わぬグッズアイディアのヒントが隠れているかもしれません。