「ダイナミックプライシング」という言葉を、ニュースや新聞などで多く見聞きするようになりました。
ダイナミックプライシングとは、条件によって商品やサービスの価格が変動する、というシステムですが、その目的と仕組みはどのようになっているのでしょうか?
ダイナミックプライシングは、企業が独自に価格を操作しているようにも思えますが、私たちにメリットはあるのでしょうか?
今回はダイナミックプライシングの仕組みから、メリットとデメリット、そして具体例を交えてご説明していきます。
目次
ダイナミックプライシングとは
ダイナミックプライシングとは、変動方式でサービス・商品価格を決定することです。
具体的には、需要と供給のバランスから、多頻度にサービス・商品の価格を設定する手法を指します。
商取引においては長らく価格交渉によって商品の値段を決めていましたが、19世紀後半から「一定価格制」が生まれ、主流となっていきました。
1980年代に、アメリカン航空でダイナミックプライシングが採用されると、その後ダイナミックプライシングを導入する企業が、旅行業界や小売業にも広がりました。
そして近年では、ダイナミックプライシングを導入する企業が増えてきましたが、その理由には以下のようなものが考えられます。
- AIの発達により、ビッグデータの収集・分析を通じた、複雑な需要予想が可能となったため
- 新型コロナウイルス対策(三密回避)でダイナミックプライシングの導入が提言されたため
- 消費者ニーズの多様化に対応するため など
ダイナミックプライシングの価格を算出する方法
ダイナミックプライシングを採用する際は、需要と供給のバランスを見極め、安定的に利益を生み出す「最適な価格設定」が不可欠です。
最適な価格設定をするためには、水道光熱費・人件費などの固定費と、ピーク・オフピークや天気などの要因をもとに売上変動を考慮します。
かつて、このような調整は人の手で実施されましたが、現在はAI(人工知能)の実施が一般的となっています。
ここからは、レジャー施設のチケット価格を例として、ダイナミックプライシングによる価格設定を見ていきましょう。
価格設定の例
平日の場合
入場者数:1,000人
チケット価格:1,000円
結果:売上100万円(1,000円×1,000人)− 人件費など固定経費(50万円)= 50万円の利益
平日(雨)の場合
想定される入場者数:600人
販売価格:800円に値下げ→入場者数:800人に増加
結果:売上64万円(800円×800人)− 人件費など固定経費(50万円)= 14万円の利益
土日・祝日の場合
想定される入場者数:1,500人
販売価格:1,200円に値上げ→入場者数:1,400人に減少
結果:売上168万円(1,200円×1,400人)− 人件費など固定経費(50万円)= 118万円の利益
上記のレジャー施設では、雨の日など入場者数が少ない日は値段を下げて、入場者数の増加を狙い、減少した利益を補っています。
また、土日・祝日などは、来場希望者が多い(ニーズが高い)ことから入場料の値上げを実施しています。
これにより想定よりも入場者数は減っていますが、入場料を値上げしない場合よりも多くの利益が確保できています。
このようなダイナミックプライシングの価格を算出するプロセスは、以下の通りです。
データ収集
過去の売り上げや顧客データをはじめ、商品・チケットの在庫、イベント、天候、SNSなど様々なデータが参照されます。
需要予測
たとえば、宿泊施設においては、同じフロア、同じクラスの客室でも、部屋から見える景色の違いによる需要の変化が発生します。
これらの需要予測は、人ではなくAIによるものが一般的となっています。
AIは機械学習を繰り返すことで、価格提案の精度が向上します。
価格決定
AIによる価格提案をもとに、最終的な価格を決定します。
システムによっては数分ごと、1円単位で価格変動させることも可能です。
ダイナミックプライシングを採用するメリット
ダイナミックプライシングを採用すると、企業側とユーザー側の双方でメリットが享受できます。
具体的に、企業は「収益の最大化」、ユーザーは「商品が入手しやすくなる」などのメリットが期待できますので、詳しく解説します。
企業側のメリット
AIを活用したダイナミックプライシングを採用することで、企業側には以下のようなメリットが期待できます。
- 収益を安定して上げられる
- 人的リソースを最適化できる
需要が高まる時期は値上げし、収益増加につながる一方、需要が低い時期は、値下げによる在庫処分で利益が確保できます。これにより収益の安定化・最大化につながります。
また、AIなどを活用したシステムを導入することで、価格変更・決定に要する人材が削減できることから、人的リソースの最適化も可能となります。
ユーザー側のメリット
ダイナミックプライシングを採用することで、ユーザー側には以下のようなメリットが期待できます。
- 時期によりお得に商品やサービスを得られる
- 欲しい商品やサービスが手に入りやすくなる
ユーザーは商品やサービスを手に入れる際、需要の少ない時期を狙うことで、お得に購入することができるようになります。
また、人気が高く、入手が難しかった商品やサービスも、需要に見合う対価を支払うことで、入手しやすくなることが期待できます。
ダイナミックプライシングを採用するデメリット
ダイナミックプライシングにはメリットもある一方、知っておくべきデメリットもあります。
具体的に、企業は「コスト面」、ユーザーは「必要な商品が高額になる」などのデメリットが懸念されるため、詳しく解説します。
企業側のデメリット
ダイナミックプライシングを採用することで、企業側には以下のようなデメリットが懸念されます。
- 価格変更の対応やシステム構築に費用が発生する
- ユーザーが不満を抱いてしまう可能性がある
ダイナミックプライシングの導入時には、システム構築費用が発生するほか、ランニングコストとして保守・運用コストもかかります。
また、変動する価格に対してユーザーが不満や不信感を抱いた場合、商品やサービスの買い控えや、ブランド離れにつながる恐れも考えられます。
ユーザー側のデメリット
ダイナミックプライシングを採用することで、ユーザー側には以下のようなデメリットが懸念されます。
- 必要なときに価格が上がっていると損になる
- 価格が下がるのを待っている間に購入機会を逃す可能性がある
ダイナミックプライシングが導入されることで、本当に商品やサービスを必要とする時期に、他のユーザーのニーズも高くなり、価格が上がることが考えられます。
この場合、固定価格だった時と比較して、多くの出費が必要となり、ユーザーによっては損したと感じる場合もあります。
また、価格が下がるのを待っている間に売り切れてしまう、などのリスクも考えられます。
ある程度のコストアップを割り切って購入するか、お得に購入することを優先するか、判断が難しいと感じるユーザーも多いでしょう。
【業界別】ダイナミックプライシングの導入事例
ダイナミックプライシングはさまざまな業界で取り入れられています。
ここからは、ダイナミックプライシングを導入している、以下の企業やブランドを紹介します。
- 【エンタメ】ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
- 【エンタメ】東京ディズニーリゾート(東京ディズニーランド・東京ディズニーシー)
- 【エンタメ】Yahoo!チケットEXPERIENCE VOL.1
- 【エンタメ】石打丸山スキー場
- 【アパレル】セシール
- 【スポーツ】サッカーJリーグ:横浜F・マリノス
- 【スポーツ】プロ野球:オリックス・バッファローズ
- 【民泊サービス】Airbnb
- 【小売店】ローソン
- 【小売店】ビックカメラ
- 【インフラ】コスモエネルギーホールディングス
- 【交通】JR東日本
- 【交通】ANA(全日本空輸)
同業種や、同じカテゴリーの商品・サービスを提供する会社の事例を参考にしてみてください。
【エンタメ】ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを運営している合同会社ユー・エス・ジェイは、2019年1月にダイナミックプライシング(変動価格制)を導入しました。
入場者数の平準化・分散化を図る目的で採用され、シーズンや曜日ごとに異なる価格の入園チケットが、2ヶ月先まで販売されています。
その結果、入場者数のバラつきを解消すると共に、価値に見合うチケット価格の調整を実現しています。
東京ディズニーリゾート(東京ディズニーランド・東京ディズニーシー)
東京ディズニーリゾートなどを運営する株式会社オリエンタルランドは、2021年3月20日より、東京ディズニーランド・東京ディズニーシーの入園チケット(入園パスポート)にダイナミックプライシング(変動価格制)を導入しました。
曜日や時間帯に応じてチケットの価格を変動させることで入園者数を平準化し、混雑を緩和する狙いがあります。
平日や閑散期を狙ってチケットを購入することで快適に遊べるなど、利用の仕方によっては入園者にとっても恩恵があります。
【エンタメ】Yahoo!チケットEXPERIENCE VOL.1
引用:https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2019/08/29a/
パスレボ株式会社(ヤフー株式会社とエイベックス・エンタテインメント株式会社の合弁事業会社)は、2019年開催の音楽イベント「EXPERIENCE VOL.1」において、ダイナミックプライシングを全席の販売に対して実施しました。
これは日本初の試みで、音楽イベントにおけるダイナミックプライシングの有効性を検証することも、採用された背景です。
ユーザーは3,000円〜5万円超と多様な選択肢から座席が購入できるようになっています。
【エンタメ】石打丸山スキー場
石打丸山スキー場(新潟県・越後湯沢エリア)を運営するアルピナBI株式会社石打事業所は、2022年のウィンターシーズンからオンラインで事前購入できる一部のリフト券にダイナミックプライシングを導入。
混雑期を避けることで、普段よりもお得に遊べるようになりました。
オンラインで事前購入したチケットは、二次元バーコードを自動発券機にかざすだけで即座に発行可能。
窓口に並ぶことなく、スムーズにチケットを受け取れます。
【アパレル】セシール
株式会社ディノス・セシールはダイナミックプライシングの実用化に向けた取り組みを、2020年から開始しました。
カタログ通販企業であるセシールは、取扱商品の7割を衣料品が占めており、以前から価格変更を実施していましたが、それでも残ってしまう余剰在庫をいかに減らすかと言うのが長年の課題となっていたことも取り組みを開始する背景としてあります。
商品ページの訪問者数予測モデルの開発などのデータ環境を整えた結果、売り上げ改善効果がみられているようです。
【スポーツ】サッカーJリーグ:横浜・F・マリノス
Jリーグのサッカーチームである横浜F・マリノスを運営している横浜マリノス株式会社。2019年から一部企画チケットを除く全ての席種で、ダイナミックプライシングをJリーグの中でいち早く採用しました。
採用の背景には、収容人数に大きな偏りのある2つのホームグラウンド(日産スタジアムとニッパツ三ツ沢競技場)を持っていたことが挙げられます。
ダイナミックプライシングを導入した結果、席種の良さと価格の安さをユーザーが選択できるようになり、ニーズに対応できるようになったことで、今後の観客増加が見込まれています。
【スポーツ】プロ野球:オリックス・バファローズ
オリックス・バッファローズは2019年7月から、ダイナミックプライシングを導入しました。
プロ野球では2016年にソフトバンクが導入したのを皮切りに、他球団も導入。
スポーツ業界全体でも少しずつ導入が進んでいますが、オリックス・バッファローズはプロ野球界では初となる「1円単位」のダイナミックプライシングを実現しています。
これにより、ユーザーニーズをより細やかに反映できるようになっています。
【民泊サービス】Airbnb
Airbnbは、空き部屋のシェアで利用料を得ることができるサービスに、スマートプライシング機能を搭載しています。
機能をオンにすると、エリア内の需要に応じて、推奨料金を提案してくれます。
Airbnbのユーザーは宿泊業の専門家などではないため、適切でない価格設定で収益機会を逃している可能性がありますが、機能を活用することで利益最大化を図ることが期待できます。
【小売】ローソン
株式会社ローソンは2019年に経済産業省主導のもと、情報共有システムの実験とダイナミックプライシングを導入しました。
電子タグを用いることで、在庫の可視化を実現し、実験用のLINEアカウントに登録したユーザーに向けて賞味期限の近い商品情報を通知し、購入を促すことを目的にしています。
対象商品をLINE payで購入したユーザーにはLINEポイントが10ポイント還元されるなどのメリットもあり、店舗側も食品ロス削減の効果が見込まれています。
【小売店】ビックカメラ
大手家電量販店を運営する株式会社ビックカメラは、2020年度の末ごろから販売する商品に対してダイナミックプライシングを導入。
価格をデジタル表示する「電子値札」を用いることで、オンラインだけでなく、店頭においても適正な価格付けをリアルタイムに行えるようになりました。
ビックカメラがダイナミックプライシングを導入した背景には、リアル店舗同士の競争が激化していることに加えて、オンライン通販(ECサイト)との価格競争に対抗する意図があるものと思われます。
【インフラ】コスモエネルギーホールディングス
引用:https://info.carlifesquare.com/
コスモ石油マーケティング株式会社と呼ばれる「カーライフスクエア」アプリの提供を開始しました。
「カーライフスクエア」アプリでは、顧客の利用状況などに合わせてクーポンを配信し、会員へのさらなるサービス拡充を目指しています。
給油量や来店頻度で値引きが調整されるため、サービス利用頻度の増加など、顧客行動の変化も期待されます。
【交通】JR東日本
引用:https://www.jreast.co.jp/railway/#booking
JR東日本は、平日朝のピーク時間帯以外に通勤電車を利用する人向けに「オフピーク定期券」の販売を開始しました。
通勤時間帯の混雑は、コロナ禍が続く状況においてはさらに大きな課題と言えます。
「オフピーク定期券」は通常よりも10%安く利用できることもあり、今後利用者が増えれば、通勤時間帯の混雑緩和にもつながることが期待されます。
【交通】ANA(全日本空輸)
引用:https://www.ana.co.jp/ja/jp/serviceinfo/dynamic-pricing/
ANA(全日本空輸)は、2020年に「ANAダイナミックプライシング」の提供を開始。
搭乗便の需要と供給に応じて価格が変動する、新たな運賃システムをスタートさせました。
搭乗日の355日前から出発の前日まで好きなタイミングでチケットを購入できたり、飛行機とホテルを組み合わせて便利に購入できたりと、快適な空の旅をサポートしてくれるような運賃システムとなっています。
ダイナミックプライシングの浸透による業界の今後の展望
顧客ニーズに応え収益を最大化するために、ダイナミックプライシングを導入する企業は今後増えていくと考えられます。
実際に国内では、すでにダイナミックプライシングが一般的な宿泊・航空業界のみならず、エンタメ・アパレル・スポーツ・小売業・インフラ・交通など、多くの業界で導入が進んでいます。
なお、2022年には、内閣府推進のプロジェクト「第2期スマート物流サービス」の採択業者が「運送業界におけるダイナミックプライシングエンジンの構築」の実証実験を実施しており、今後は物流・運送業界においても、ダイナミックプライシングの本格的な導入が予想されます。
まとめ
ダイナミックプライシングには多くの導入メリットがある一方、まだ全てのユーザー(消費者)に受け入れられているわけではありません。
ダイナミックプライシングの今後の広がりにおいては、変更する価格の精度を高め、より多くのユーザーの満足度を高め、信頼を獲得していくことが重要となります。
またダイナミックプライシング以外にも、販売促進の方法が複数あるため、自社に合った方法を採用することが重要です。
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