旅のスタイルの多様化に伴い、旅行業界などで耳にする機会が増えてきたのが、分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)と呼ばれる新しい宿泊施設です。
分散型ホテル、アルベルゴ・ディフーゾとはいったいどんなものなのかを解説しています。
旅や宿泊を伴うイベントやキャンペーンのアイデアとして、ぜひ参考にしてください。
目次
高まるインバウンド需要とオーバーツーリズム
2020年の新型コロナウィルスの世界的大流行により、約3年にわたり停滞を余儀なくされていた旅行業界ですが、2023年以降は勢いを取り戻しつつあります。
コロナ禍明けからの旅行者数の推移
引用:https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shutsunyukokushasu.html
新型コロナウィルス感染症対策として、政府による初の緊急事態宣言が発令されたのが2020年。
同年に開催を予定していた東京オリンピックは、1年の延期を経て2021年に無観客で開催されました。
国内外からの観光客が訪れる恰好の機会を逃したものの、日本は2022年から段階的に海外からの流入を再開。
2023年に、新型コロナウィルス感染症が感染法上の位置付けでの「5類」に移行したことにより、観光客数は再び増加し始めています。
観光地を悩ますオーバーツーリズム(観光公害)
こうした中で、しばしば問題となるのが「オーバーツーリズム(観光公害)」です。
オーバーツーリズムとは、特定の観光地や名所にキャパシティを超えた観光客が押し寄せることで起こる、混雑や渋滞、ゴミや騒音などによる景観の破壊、マナーを無視した振舞いによる迷惑行為、およびそれらを原因とした地域住民と観光客とのトラブルを指します。
最近では、山梨県富士河口湖町のコンビニをめぐる攻防が話題になりました。
店の上に富士山が乗っているように見える写真が撮れると海外で評判になったことから、「撮影映えスポット」として、店の前に多くの観光客が集まるようになりました。
撮影を目的とした観光客は連日店の周辺や道路にたむろし、店の営業を妨害。
ところかまわずゴミを捨てたり、周辺の私有地に立ち入ったり、道路を無断で横断したりなど、注意しても一向に改善しない観光客のマナー違反に耐えかねた町が、苦渋の選択として店の前に黒い幕をかけて撮影できないようにしたことが、物議を醸しています。
一時的な効果はあったものの、設置された黒い幕に穴を開けてまで撮影を試みる不届き者も現れるなど、いたちごっこの様相を呈してきているこのコンビニに限らず、こうしたオーバーツーリズムは観光名所を中心に各地で起こっており、盛り返しつつある旅行業界での大きな課題となっています。
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)とは?
そんな旅行業界で今注目されている新しい宿泊施設が、分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)です。
これは、小さな町やコミュニティの中にある複数の建物に客室が点在する形式の宿泊施設。
1棟のホテル内にて、宿泊、入浴、食事、リラックスなど、旅のほとんどの要素が完結する形式とは異なり、目的に応じてコミュニティ内のさまざまな施設を行き来する宿泊スタイルです。
地域再生と新しい宿泊のスタイルが融合
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)とは、通常の観光コースからは離れた歴史的な小さな村や町の中心部を復活させる手段として、1980 年代初頭にイタリアで提唱されたコンセプトです。
集落内にある空き家や空き店舗などを、機能ごとにホテルとしての役割を備えた施設に再生し、レセプション機能を持つ拠点を中心にネットワーク化することで、分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)とします。
訪れた人は、その地域で営まれてきた伝統的な暮らしを、まるでそこの住人になったような気分で楽しむことができるのです。
古民家や空き家、空き店舗をリノベーションして活用
少子高齢化による人口減少に伴い、イタリアでも深刻になっている地方の過疎化、空き家問題。
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)は、空き家や空き店舗を、各施設の機能を活かしたまま宿泊設備としてリノベーションして活用します。
周辺の空き家・空き店舗も合わせて分散型ホテルとすることで、集落全体をまんべんなく旅行者が行きかう宿泊施設とすることが可能になるこの仕組みは、空き家問題への具体的な解決策であると言えるでしょう。
各施設で受け容れる人数は限定されているため、1か所に観光客が集中するオーバーツーリズムが起こりにくいのも特徴です。
訪れた観光客は、滞在中に施設を行き来することで地元の人々と触れ合うことができ、また旅人同士での程よい距離感を保った交流も生まれやすくなります。
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)のタイプ
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)には、大きく分けて4つのタイプが存在します。
歴史的資源活用型
城下町、商家町、宿場町などの立地を中心に、景観を保存したまま歴史的建築物を活用して分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)を展開しているタイプです。
訪れる人による地域活性化、また領域内での生活消費の拡大も目的としています。
旧家邸宅、商家などの歴史的資源となる建築物の活用が起点となっているため、建物にまつわるまちの歴史を含めたブランディングが可能となります。
中心市街地活性化型
商店街、港町、宿場町といった、経済活動の盛んな中心市街地の機能を活かし、分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)として展開するタイプです。
空き家や空き店舗などを活用して街全体を活性化することで観光客を呼び込みます。
もともとの中心市街地としての機能を強みに地域ににぎわいを創出し、観光消費の拡大につなげることを目的としています。
地域創生型
中山間部や宿場町など、過疎化が懸念される地域を中心とした分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)です。
こちらは「地域創生」、つまりは町おこしや村おこしが起点となっています。
古民家や旧陣屋など、歴史や建築に造詣が深い人にとっては非常に魅力的に映る施設をホテルの一部として活用しながら、地域コミュニティが主体となって、まちぐるみで連携して観光客をもてなしたり、定住者の誘致につなげるような分散型ホテルを展開するタイプです。
ホテル業の生産性向上型
こちらは、主に都市部での宿泊施設の運営の生産性を向上させるタイプです。
大規模なホテルなどの宿泊施設では、稼働率に関わらず人員が必要です。
繁忙期・閑散期を問わず、運営のためには一定の人員を配置しておく必要があり、このことがホテル産業の生産性の低さにつながると指摘されてきました。
都市部における新築・既存のホテルを一体運営したり、小規模ホテルの複数棟を連携したりして分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)として展開することで、施設オペレーションの効率化を実現し、既存のホテルに高い付加価値をもたらします。
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)のメリット
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)のメリットを検証します。
注目度、話題性の向上
1棟の宿泊設備、1軒の店舗だけではさほど話題にならなくとも、周辺の空き家や施設とネットワークを形成して一つのホテル・宿泊施設とする分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)とすることで、注目度および話題性が飛躍的に向上します。
「そこに泊まること」自体が旅の目的になり得るのです。
歴史的建造物、価値ある空き家の有効活用
旧家邸宅や商家、古民家や陣屋などの歴史的建造物を保護・保全するには、補修費はもちろん膨大な維持費がかかります。
この費用をどこから工面するかが保全活動の大きな障壁となることがありますが、分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)として活用することで収益が生まれれば、そこから賄うことが可能になります。
歴史的に価値のある建造物を、経済的に活用しながら持続的に保全できるようになるのです。
地域全体の活性化
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)は、ネットワーク化された複数の施設で成り立っています。
一つ一つの施設単体では旅が成立しないため、観光客は、宿泊中に各施設それぞれを目的に合わせて行き来する必要があります。
そのため、施設単体はもちろん、ネットワークを含んだ地域全体の活性化につながります。
地域の人と観光客、観光客同士の交流
ネットワーク内の施設を行き来する観光客は、必然的にそこで暮らす地域の人々と大なり小なり交流を持つ機会が増えるのも、分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)の特徴です。
また同時に、観光客同士でも適切な距離感を保ったまま、交流する機会が生まれやすいこともあります。
同じ分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)に宿泊していたとしても、各施設を訪れるタイミングは人それぞれなので、四六時中顔を突き合わせるようなことはありません。
一人で訪れても、また複数人数で訪れても、旅の醍醐味である「袖振り合うも他生の縁」を味わうのに適した環境であると言えるでしょう。
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)のデメリット
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)にはデメリットも存在します。
施設同士の連携が不可欠
一定の集落や街などの範囲内で複数の施設がネットワークを作る必要があるため、施設同士の連携が不可欠です。
また、宿泊客を迎えるためにホテルとして足りない機能がある場合には、新たにその機能を持った施設を用意する必要があります。
意思決定に時間がかかる
各施設ごとに運営を行っていたものを、分散型ホテルとして機能を分配して再構築することは、今までかかっていたよりもはるかに多くの時間を意思決定に要することを意味します。
ちょっとしたアイデアを実現したり、不具合を修復したりといった際にも全体としての決議が必要になるなど、スピード感は大幅に減少することになるでしょう。
自治体、地域全体で関わる必要がある
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)として活用する施設だけでなく、その地域、あるいは地域を含む自治体全体でかかわる必要が出てくることも、デメリットと言えるかもしれません。
意思決定に時間がかかるのはもちろん、宿泊施設側だけの思惑で思うように運営できない、といったジレンマが生じる可能性があります。
コンセプトを理解できないゲストには不便な場合も
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)では、大規模ホテルのように1つのホテルの中ですべてを完結することができません。
そこが醍醐味であることを理解できないゲストには、宿泊施設から食事の場所へ、あるいは入浴のために、と目的に応じて施設から施設への移動が必要になる分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)は不便に思われることもあるかもしれません。
迎えるゲストがどんな目的でこの旅を楽しみたいのか、コンセプトを明確にしておくことが大切です。
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)の事例
分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)の日本国内の事例をご紹介します。
篠山城下町ホテルNIPPONIA
引用:https://www.sasayamastay.jp/concept/
兵庫県中東部に位置する丹波篠山市は、歴史的な街並みが残る城下町として知られています。
約400年前、徳川家康が豊臣家攻略のために築城した篠山城を中心に、町全体をホテルとした分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)がこちらの「篠山城下町ホテル NIPPONIA」です。
丹波篠山の風情ある町並みを形作り、歴史・文化を伝える貴重な財産でもある歴史的建造物を、客室として活用しています。
明治前期に建築された元銀行経営者の旧邸宅、江戸末期に建てられた長屋など、建物がもつ趣はそのままに、歴史性を尊重してリノベーションされた客室には、テレビや明るい照明などはあえて設置されておらず、往時の人々の暮らしに思いをはせることができます。
丹波篠山の特産品をふんだんに使用した食事はもちろん、宿泊者限定のメニューもあるさまざまな体験型アクティビティも豊富で、丹波篠山の街と歴史をまるごと満喫することができる分散型ホテルです。
HOTEL 講 大津百町
琵琶湖で有名な滋賀県大津市は、実は「47都道府県でいちばん寂しい県庁所在地」と言われるほど地味な街であることを自認しています。
中心市街地の商店街で進む「シャッター化」を逆手に、雑誌やテレビ、インターネットでは得られない「リアルな体験」をテーマにした宿、「宿場町 HOTEL 講 大津百町」として分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)を展開しています。
ネットで検索する代わりに街を歩き、ガイドブックの紹介文を読む代わりにお店の人と話してみるのが、ここでの旅を最大に楽しむコツです。
豊富な歴史的建造物や江戸時代から続く鮒鮓の名店や漬物屋など、実際に歩くうちに次々に見つかる街の魅力は、この場所に滞在することでしか得られない貴重な体験になります。
新たな施設や名物・名産品を作るのではなく、昔から息づく文化や風土、人々の営みを観光資源化して地域を活性化するモデルを目指すとして、宿泊者一人につき150円を商店街に寄付する「ステイファンディング」など、ユニークな試みを取り入れている、注目の分散型ホテルです。
SEKAI HOTEL Takaoka
「旅先の日常に飛び込む」のが、「SEKAI HOTEL」のコンセプト。
現在は富山県高岡市と大阪府布施の2か所で、「まちごとホテル」として分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)を展開しています。
ドラえもんの作者として知られる藤子・F・不二雄の出身地である高岡では、彼が若き頃に通い詰めた文苑堂書店を拠点に、雨晴海岸や立山連峰などの豊かな景観に共通する美しい青色や、趣きあふれる路面電車万葉線のレトロな水色の車両や最新型のドラえもんトラムなど、街にあふれるさまざまな青色の中から宿泊者お気に入りの「やわやわブルー」を見つけてほしいと謳っています。
ちなみに「やわやわ」とは、富山弁で「ゆったり、ゆっくり」という意味。
会話のイントネーションもテンポ感も、ゆるやかに、のんびりと、ここでしか味わえない旅の時間を楽しんでほしいという願いが込められています。
三浦半島の旅宿 三崎宿
昔ながらの古民家、歴史ある蔵造りの建物に泊まれると評判なのが、「三浦半島の旅宿 三崎宿」です。
海に囲まれた三浦半島は、船での交通が主だった時代が長く、宿場としての発展がない商家の街でした。
観光誘致策として、足りない宿泊施設を新たに建築するのではなく、江戸の風情を色濃く残す商家や古民家、酒蔵などを宿として再生し、歴史を感じる至福の宿泊施設として活用しています。
三浦半島の新鮮な海の幸をはじめとした食を楽しみに、季節ごとにいくつもの宿をはしごするリピーターも多いと言われる、人気の分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)です。
推し活における旅・宿泊とは
推し活シーンでの旅や宿泊について考察してみましょう。
ライブやコンサート、イベント等に参加するための遠征
推し活シーンにおける旅や宿泊には、遠方で行われるライブやコンサート、イベントなどに参加するための「遠征」や、フェスへの参加を盛り込んだツアーなどがあります。
この場合は、コンサートやイベントの会場に近い場所にある宿泊施設を予約するなど、目的へのアクセスの良さを最優先することが多く見られます。
ゆかりのあるスポットをめぐる聖地巡礼
そしてもう一つが、「聖地巡礼」と呼ばれる、旅程自体が推し活となる旅です。
出生地や母校など、推しに関するゆかりの地や、作品の中に登場する場所を実際に訪れたり、PVが撮影された場所やデビューイベントが行われた場所を訪ね歩くなど、推しに関連する場所ならどこでも聖地となり、そうしたスポットを巡る旅はもれなく聖地巡礼となります。
歴史に関する物語など、聖地が一定のエリア内に密集している場合には、密度の濃い聖地巡礼が行われることもあります。
いずれのパターンでも、一定の地域の中に宿泊のための施設が点在する分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)なら、推し活における旅の内容をさらに充実させるプランが考えられるかもしれません。
まとめ:分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)とは
旅行・宿泊業界の気になるキーワード「分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)」について解説しました。
街全体をひとつの宿泊施設として考えるというスケール感は、聖地巡礼を行うファンにとっては魅力的。
「推し活」における旅や宿泊を、より豊かなものにしてくれる可能性を秘めているかもしれません。
推し活×旅・宿泊といった案を考える際に、ぜひ参考にしてみてください。
トランスでは、クライアント企業のみなさまの目的に合わせた企画提案を得意としています。
オリジナルグッズをはじめとした自社の商品やサービス、プロモーションに関するアイデアをお寄せください。
世界に一つの企画として、ぜひご一緒に実現しましょう。
お気軽にご相談ください。
おすすめコラム
『推しとカフェ巡り』に重宝されるオリジナルグッズ製作|オタクニーズに合わせたアイテム特集
“推し活とカフェ”に着目し、『推しとカフェ巡り』に重宝されるアイテムや、『コラボカフェ』の物販・ノベルティにオススメのアイテムを集めました。
オタクニーズをとらえたオリジナル推し活グッズ製作のポイントをご紹介します。
ミコメ ナホ
アルベルゴ・ディフーゾ。
初めて聞いた時は「絶対なんかおいしいものの名前だろう」と思いました。
「食べたことあるよ」とか答えなくて良かったです。
公開日:
株式会社トランス