ジェンダーレスとは?多様な価値観を表現した企画の事例紹介
ジェンダーレスとは?多様な価値観を表現した企画の事例紹介

近年、「ジェンダーレス」に代表される多様な価値観が浸透しつつあります。ジェンダーレスの価値観を表現した、多様性を認める社会の実現を後押しする企画には、どのようなものがあるでしょうか。ここでは、ジェンダーレスの価値観を表現した、企業による取り組みの事例をご紹介します。

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ジェンダーレスとは

ジェンダーレスとは?

「ジェンダーレス」とは、社会的・文化的に求められる性差を表す「ジェンダー」の境界をなくすという考え方のことを示します。つまり、社会で認知されている「男性らしさ」「女性らしさ」といった区別を取り払うことが、重要なテーマとなります。

これによく似たニュアンスの言葉として、性別の違いにとらわれず、個人が自由に行動するという考えを推す「ジェンダーフリー」があります。ジェンダーフリーが性差にとらわれない考えを基にしていることに対し、ジェンダーレスは、そもそも性別による区別や境界をなくすことを重視しているところが異なります。

ジェンダーレスは、「性自認」や「性表現」とも関連性があります。性自認は「自身の性別の捉え方」、性表現は「外見や行動を通した性別の表し方」を示しています。社会的に位置付けられた男女の境界をなくすジェンダーレスの視点を基にすると、性自認や性表現でも、「男性」「女性」の枠組みが当てはまらないケースも出てきます。

ジェンダーレスの表現例

ジェンダーレスの価値観が特徴的に写し出される表現方法の一つとして、「ファッション」が挙げられます。ジェンダーレスをテーマにしたファッションは、男性らしさ、女性らしさを感じさせない服装、髪型、メイクなどが活用されます。

ジェンダーレスなファッションの例としては、日傘を差したり、メイクをしたりする男性、ナチュラルメイクやカッコいいテイストの服装を選ぶ女性などが挙げられます。ゆるやかなシルエットの服装や美肌をアピールするスキンケア・メイクを男性が取り入れるなど、中性的かつ自分らしさを大事にする雰囲気を醸し出すためにも活用されています。

ジェンダーレスで連想される著名人や作品

最近は、モデルやタレントなどにも、ジェンダーレスな雰囲気の有名人が増えてきています。以下は、ジェンダーレスなイメージが特徴的な有名人です。

ゆうたろう

テレビ番組への出演で注目され、SNSにアップする女装姿などでも話題を集めている「ジェンダーレス男子」です。「女子よりも女子」「かわいすぎる」といわれ、数々の反響を呼んでいます。

りゅうちぇる

テレビなどでの独特の言動や雰囲気で人気を博し、タレントとしても活躍しています。ブレーク時から、「ジェンダーレス男子」として注目されていました。濃いチークに金髪、ヘアバンド、カラータイツと、ブレーク時のファッションは、存在感を放っています。

こんどうようぢ

SNSでのファッションの発信や、テレビ出演などで注目される「ジェンダーレス男子」で、アーティストとしても人気です。

中山咲月

ジェンダーレスでミステリアスな雰囲気から、女性からの人気が高い女優です。ドラマや映画に出演する度に話題に上っています。

また、映画や漫画の世界でも、ジェンダーレスをテーマとした作品が増えてきており、社会的にも、ジェンダーレスの認知度は高まってきています。ジェンダーレスを扱った作品としては、以下の例が挙げられます。

井手上漠

2018年、ジュノン・スーパーボーイコンテストで特別賞を受賞し、“かわいすぎるジュノンボーイ”として注目されました。Twitterの自己紹介欄の「性別ないです」という言葉が印象的です。ジェンダーレスな生き方で若者から絶大な注目を集めるモデルです。2021年4月に発売された「井手上漠フォトエッセイ normal?」(講談社)は、ネット書店のランキングで1位を獲得し、発売前に重版が決定したそうです。

「ジェンダーレス男子に愛されています」

女子力が高く、SNSでも人気の「ジェンダーレス男子」と社会人女性の恋愛を描いたコメディー漫画です。また、2021年4月より、「カラフラブル~ジェンダーレス男子に愛されています。~」(讀賣テレビ)で吉川愛と板垣李光人のW主演でドラマ化されました。

「ジェンダーレス男子。」

「ジェンダーレス男子」のファッションや、ライフスタイルに迫るフォトブックです。

ジェンダーレスが注目されている理由

ジェンダーレスは、2000年代に成人を迎えた「ミレニアム世代」や、1996~2015年に生まれた「Z世代」にとっては、抵抗が少なく受け入れられる価値観。

2015年の国連サミットで採択された国際的な目標である「SDGs(Sustainable Development Goals)」の中にも、「ジェンダー平等の実現」が含まれています。SDGsは、環境、教育、経済などの分野で「2030年までに達成すべき持続可能な開発目標」を示しており、若年層からの関心が高いです。SDGsの目標をきっかけに若者世代を中心に性的少数者に対する理解も深まり、LGBTのカミングアウトについても肯定的な見方が広まりました。

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国内でも、学校の制服に性差を取り払ったり、ユニセックスなデザインが採用されたり、ジェンダー平等は、学生にも身近な課題として捉えられやすくなっています。若年層へのSDGs推進活動を展開する「東京ガールズコレクション」の会場での認知度調査では、SDGsに含まれる17の目標の中で、「5.ジェンダー平等を実現しよう」に対する関心が最も高いという結果も示されています。

(参考:「Withコロナ」でサステイナブル・SDGsに高い関心 女性読者の意識調査を発表!

ジェンダーレスな価値観を表現した企画・取り組みの事例紹介

ジェンダーレスな価値観を表現した企画・取り組みの事例紹介

ジェンダーレス社会の実現に向けた取り組みは、ビジネスの世界にも影響を与えています。例えば、ジェンダーレスの価値観を表現した以下のジャンルの企画は、世間に幅広く浸透しています。

・メイク・髪型・ビューティー関連
人気男性タレントをキャラクターに起用した広告が増えており、化粧やおしゃれを楽しむ男性向けの取り組みが目を引きます。

・ファッション
性別に関係なく、おしゃれを楽しめるアイテムが有名ブランドから発売され、芸能人が衣装として着用するなど話題を呼んでいます。

・時計・宝飾品
「男性用」「女性用」といった枠組みのないアイテムが、若者向けの商品として注目を集めています。

メイク・髪型・ビューティー関連

女性用コスメブランドの広告に男性が登場するなど、今や美容のジャンルにおいて、男女の垣根がない状況は珍しくありません。積極的にジェンダーレスに取り組む事例として、以下の企業が挙げられます。

MAYBELLINE NEW YORK 「ハイパーシャープライナーR」

メイクアップなどの投稿で人気の男性ユーチューバー・インスタグラマーを、初の男性アンバサダーとして任命するなど、ジェンダーレスに関わる取り組みが注目されています。ジャパンブランドサポーターには、俳優の錦戸亮さんを起用し、アイメイクを通して「いつもより少し強くいる」イメージを演出するキャンペーンなどを展開。

M・A・C 「スタジオ フィックス フルイッド SPF15」

多様性と個性の尊重をうたっているメイクアップブランドで、海外で人気の男性ビューティーインフルエンサーとのコラボアイテムの販売などで、注目されています。日本では、アーティストのNissy(西島隆弘)さんを商品の限定ビジュアルに起用するなどのコラボ企画で話題を集めました。

NARS 「ZEN COLLECTION」

ビューティーブランド「NARS」が日本限定で展開するメイクアイテム「ZEN COLLECTION」は、俳優の横浜流星さんとダンサーの菅原小春さんをビジュアルに起用し、男性・女性の枠組みにとらわれず、親しまれるアイテムのイメージを演出。

ファッション

ファッションのジャンルでも、男女の垣根をなくしたデザインや、サイズ展開が進められています。以下の企業は、積極的にジェンダーレスに貢献する企画を進めているとして、注目されています。

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MUJI Labo

「無印良品」が展開する「MUJI Labo」の衣服は、性別、年齢、体型に関係なく、気軽に着られるサイズ感が特徴です。ゆったりとした着心地が楽しめるシンプルなデザインで、サイズ区分に男女の表記は含まれていません。

GUCCI MX

「GUCCI」がジェンダーレスに特化して開設した新カテゴリー「MX」には、性別にとらわれないファッションを表現できるアイテムがそろっています。通常の公式サイトでは、「メンズ」「ウィメンズ」のカテゴリーに分けてアイテムを掲載していますが、「MX」では、男性向け・女性向けとは異なるテーマに沿ったアイテムを紹介しています。性別に限らず、幅広い層の消費者に向けて発信しています。

NARS 「ZEN COLLECTION」

ビューティーブランド「NARS」が日本限定で展開するメイクアイテム「ZEN COLLECTION」は、俳優の横浜流星さんとダンサーの菅原小春さんをビジュアルに起用し、男性・女性の枠組みにとらわれず、親しまれるアイテムのイメージを演出。

時計・宝飾品

これまで、性別によってデザインの違いが際立っていた時計や宝飾品のプロデュースにも、ジェンダーレスの視点が取り入れられてきています。以下のアイテムは、ジェンダーレスをテーマにしていることで注目されています。

セイコー「fusion」

セイコーウォッチが展開する「fusion」は、Z世代向けにジェンダーレスをコンセプトとして掲げています。時計を身に着ける習慣が根付きにくい若年層をターゲットに、ほぼ同規模のサイズで、多彩なカラーのアイテムをそろえています。

従来の時計は、男性は大きめ、女性は宝飾が多いなどといった形で、性別をイメージするデザインが少なくありませんでした。一方、「fusion」は、性別の枠組みに縛られず、各自が気に入ったデザインを選べるような商品を展開しています。

ジェンダーレスの価値観を表現する企画のポイント

ジェンダーレスの価値観を表現する企画のポイント

ビジネスにおいて、ジェンダーレスの価値観を表現した企画を進めるには、各所矛盾が生じないように会社全体の共通認識が大切になります。また、消費者に対し、慎重なコミュニケーション設計が必要です。今回はその中のほんの一部である、オリジナルグッズ企画、プロモーション企画においておおまかなポイントをまとめました。

・ターゲットの設定
対象を男性・女性の性別で区切らず、ジェンダーフリーに関心の高い層に向けた企画を考える必要があります。

・カラー展開
男性・女性向けを連想させるカラーの採用から脱却することで、新たなターゲット層にアプローチできます。

・デザイン・シルエット
男性も女性も、手に取りやすくなるデザインやシルエットを採用します。

・サイズ展開
男性でも女性でも、使いやすいサイズを設定します。

ターゲットの設定

ジェンダーレスの価値観に敏感なターゲット層を分析した上で企画を進めることで、「社会の流れを理解している」「持続可能な社会の実現に貢献している」といった企業イメージが広がりやすくなります。

これまでに「男性向け」「女性向け」といった区分で展開していたグッズ開発、販売品MD、キャンペーンにも、ターゲット層を広げるチャンスがあるかもしれません。例えば男女いずれかに購買層が偏ると想定していた企画の中にも、ターゲットに設定していなかった性別の購買者が含まれた、ということはなかったでしょうか。少数であっても想定外の購買層が現れた場合、「なぜ購買したのか」「商品のどんな部分が響いたのか」という点を分析した上でプロモーションなどを修正することで、新たなターゲット層の獲得につながる可能性もあります。

一方で、年齢層は、絞り込みが必要となるかもしれません。ジェンダーレスへの関心や理解度が深く、ジェンダーレスなイメージのデザインにも抵抗感を持ちにくい「ミレニアム世代」「Z世代」がメインターゲットになると考えられます。

カラー展開

男女の区別を連想させない色を採用したり、多彩なカラー展開を取り入れたりすれば、幅広い層の注目を集めることができます。グッズやブランドイメージを考案する際に、「男性向けは青・黒」「女性向けは赤・ピンク」などといった形で分けて考えていないでしょうか。

男女の垣根を取り払うジェンダーレスをテーマにする場合、「男性用」「女性用」の区別を連想させるようなカラーには、限定しない方が良いでしょう。「ジェンダーレスをイメージして企画したのに、購買者の性別に偏りがあった」といったような購買層の取りこぼしも防げます。

デザイン・シルエット

男女に限らず、使いやすいデザイン・シルエットを採用することで、ジェンダーレスのイメージが広がり、購買層の拡大を期待できます。例えば、男女いずれも着ることのできるデザインのTシャツやパーカーなら、誰もが気軽にジェンダーレスなファッションを楽しむことができ、普及しやすいです。また、ポーチのような女性の持ち物としてのイメージが強いアイテムでも、男女ともに手に取りやすいデザインが施されていれば、男性でも使用可能になります。

一方で、男性でもかわいいデザインを好んだり、女性でもカッコいいシルエットに惹かれたりする人はいます。ジェンダーレスといえば、カジュアル、シンプルなイメージを持たれがちですが、キュートやクールなどのテイストを強く表現したデザインも、ジェンダーレス男子・女子から注目されています。

サイズ展開

ジェンダーレスなグッズ・商品のサイズは、男性にとってはやや小さめ、女性にとってはやや大きく、ゆったりとしたシルエットに企画されることが多いです。サイズ感と使いやすさ、おしゃれさが共存しているデザインを取り入れることが大切ですね。また、男性・女性に限らずお好みのサイズを選べるように、サイズ展開を広げるのも良いでしょう。

まとめ

ジェンダーレスとは?まとめ

ジェンダーレスを表現する企画で企業姿勢を消費者に訴えるには、企業側にもジェンダーレスの考えを理解し、推し進める姿勢を持ち続けることが求められます。SDGsがますます浸透していくであろうこれからの社会における購買層の拡大やブランドイメージの向上を実現するアプローチとして、新しい波であるジェンダーレスの価値観を表現したプロモーション、商品、サービス展開の導入も検討してみてはいかがでしょうか。

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韓国雑貨研究 『ALAND』

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2020年10月に渋谷にオープンした、話題の韓国発セレクトショップ「ALAND TOKYO(エーランド トウキョウ)」で購入したグッズをレポート。商品だけでなく、若者に刺さる価値を発信するALANDから目が離せません。

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